「Tableauでダッシュボードを作る」ということ~BIコンサルタントがデータ可視化をデザインする時の思考~

「Tableauでダッシュボードを作る」ということ~BIコンサルタントがデータ可視化をデザインする時の思考~
金融データ活用チャレンジtableau解説 アイキャッチ

ダッシュボード作成に必要な要素

この記事を開いて頂いた方は、多かれ少なかれTableauを使ったダッシュボードを作成したことがあるかと思います。
ここで質問です。Tableauダッシュボードを作るために必要な要素は、何があるでしょうか?
Tableauを使ったことがない方も、データ分析結果を可視化したレポート(ここでいうTableauダッシュボード)を作成するシーン、と捉えて頂き、一緒に考えてみてください。

1,Tableauのエンジニアリングスキル?
確かに、BIツールとしてのTableauの使い方を知っていないと、どんなアイデアも実装できません。しかし、例えばすべてのチャート・すべての設定を熟知した人材がいても、他の要素がない場合、伝わらない・見てもらえないものが出来る可能性が高いと考えます。

2,データ理解?
使用するデータによって、分析・可視化のアプローチは変わってきます。どのシーンで、どの指標を、どの相手に見てもらい、何を期待するか、という目的を設定するためにも、データ理解は必須でしょう。

3,デザインスキル?
デザインは才能や感覚的なものと捉えられる向きもありますが、Tableau公式でガイドブックがあるように、ある程度セオリーとして示されています。
https://www.tableau.com/ja-jp/learn/whitepapers/tableau-visual-guidebook

実際Tableauの上級トレーニングにもビジュアル分析の効果的なデザインに注力したものがあり、操作方法を身に着ける以外にも、求められる要素と考えられていることが分かります。


データの持つ価値を最大化させるダッシュボード作成には、Tableauスキルに加え、データ理解によるコンセプト設定、そして閲覧者にに適切に情報を届けるためのデザイン、上記のいずれも欠かすことの出来ない要素です。


ここで自己紹介

上記要素はどの順番で身に着けるべきという正解はないです。

 

この記事を書いているBIコンサルタントのたまる自身は、最初はTableauのエンジニアリングスキルを身に着けることからスタートしています。

その上でクライアントデータを可視化・分析する案件に携わりつつ、データ理解を重ね、可視化の引き出しを増やしていきました。

デザインについての知見は、案件の中や他の人の優れたOutputを見て感覚的に身に着けたものもありますが、前述のTableauトレーニング資料を繰り返し読みつつ、3要素の中では最後に学んだものになります。

 

その積み重ねの成果か、2019年には最上級認定であるTableau Desktop Certified Professional取得、
そして今年2024年にSIGNATEで開催された第2回金融データ活用チャレンジ では、ダッシュボードの分析内容やデザインを評価されTableau賞を頂くという結果にもつなげることが出来ました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000103937.html

ある程度、ダッシュボードを作成するコツのようなものも掴めてきたと感じています。
せっかくなので、以降、今回作成したダッシュボードの作成ステップを共有致します。興味のある方は、続けてお読み下さい。

 

Tableauダッシュボードが出来るまで(受賞作を題材に)

1.目的の決定
今回、企画テーマ、インプットとなるデータは指定されているものの、コンセプトは自由に設定できました。

テーマは中小企業向けローンの返済可否予測だったため、予測実施者向けに返済が期日までに遂行されるかどうかを分ける情報を伝えられるよう「貸し倒れリスクが高いのはどのような条件か」の直感的な把握を目的とし、予測モデルの構築に向けて探索的にデータを俯瞰できるダッシュボード、をコンセプトに作成しました。

※今回はコンペという性質上、テーマ設定がある分楽でしたが、クライアント案件では、この工程が肝になり、弊社メンバーやクライアント一眼となって、目線合わせを行います。

 

2.追いたい指標の決定
データの中には"債務不履行/完済"で企業をわけるラベルがついていたので、それを用いた「貸し倒れ率」をメインの指標として置きました。

また指標をどのような切り口で表示していくかの整理として、
まずはサマリの基礎情報として「借り手企業の所在値(州)」「貸出の承認が下りた時期(年)」、

次に詳細情報として「借り手企業の従業員数」「融資期間」という量的変数、「ローンプログラム」「都市か田舎か」という質的変数との関連をそれぞれ示しています。
※事前に別途機械学習ツールにより、ある程度説明力の高い変数を選別

さらに応用的な分析として「承認された金額」と「支払われた金額」との相関、「従業員数(の平均)」と「借り手企業の所在地」のクラスタリングを表示しました。
少しメタな視点ですが、今回の企画ではTableauを初めて触る方もいたので、そういう方向けに「こういう機能もありますよ」という周知の意味も込めています。

(それぞれどのチャートを使うか、という判断もありますが、先述のTableauホワイトペーパーなどで考え方が共有されているので、ここでは割愛します。
また、上記今回はTableau賞を頂いた内容の解説ですので、上記変数を用いて精度の高い結果が得られたわけではありません。ご了承ください)

ここまでの内容を整理したところでの見た目は、こんな感じ

うーん、指標の集計結果を並べただけで、見た人もここから何を得ればいいのか困っちゃうだろうな。。

 

3.デザイン(色味/レイアウト)の決定
今回のテーマは債務不履行リスクという出来れば避けたい事項を示すものなので、注意や警告を示すアラート色として、赤を設定しました。

背景は、テーマとしての深刻さ、メイン指標に使われる赤が目立つ色を考慮した結果、黒に設定。

 

あとはレイアウトとして、左上から右下に向かって川の字に、サマリ・詳細・さらなる分析、を配置しました。

背景とタイトルでなんとなくグルーピングはされてる風だけど、どこから見てどの方向に読んでいけばいいのか、まだわかりづらい。。

 

そこで背景の黒にも明暗の差をつけ、境界を明確化しグルーピングを強調。

さらに主役である指標の高い/低いがわかりやすいよう、無駄な罫線を消しました。

可視化から読み取れる概要も記載…よし、これで当初の要件は示せている気がする。
しかしなんというか、もう少しインパクトが欲しいような。。

……あ、背景色を逆にしてみよう!

 

主役であるデータ、さらにその中でもメインである「貸し倒れ率」の赤が映えるように、チャート背景のすぐ後ろの色を真黒にしました。
初見でも、見て貰いたいところにぱっと目がいくようになったのではないでしょうか。

というわけで、こちらが完成版です。

プロトタイプを作りつつ、目的と照らし合わせながらクイックに改善を繰り返せるのは、Tableauのいいところですね。

 

フレームワークとしてのオリエンシート

一見、流れに任せて作っているようにみえたかもしれませんが、実際の案件の中では、弊社メンバーやクライアントと議論しつつ、以下の視点で、要件を整理します。

 

上記ダッシュボードも、この視点で整理しながら作成していきました。

こちらの「オリエンシート」を埋めた上でプロトタイプを作成し、それに対して議論を重ねていくことで、認識を合わせつつ状況に適したダッシュボードに近づけていくことが可能です。

本記事で示したのは一例ですが、Tableauスキルを身に着けたはいいけどどう活用すればいいのか…という方に少しでも参考になれば幸いです。

またTableauを用いた表現方法のセオリーについては、弊社代表の藤の書籍
「データビジュアライゼーションの教科書」もありますので、合わせてご確認ください。
https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798053486.html

 

 

おまけ:振り返り

業務とは直接関係ないのですが、この2年間、芸術系の大学院(MFA)で「未来に向けたデザイン」 そして「過去から連なる伝統」の2つの視点での課題解決についてグループワーク中心に学んできました。

今回のダッシュボードは一人で作ったものではあるものの、その最中は弊社メンバーとのやりとりを思い起こしながらの作業でした。そういった意味で、共創によるデザイン、という思考は、学業でも仕事でも垣根なく通ずるものがあると改めて実感しました。

 

データの目的整理、ダッシュボードの作成、そこで表現されたデータ解釈、いずれのフェーズでも他者との議論により得られる価値があります。

自分のキャリアを一緒に歩んできたTableauについて、そのようなコミュニケーションを呼び起こす手段としての可能性を感じられた取組みとしても、貴重な経験が出来ました。

企画、運営頂いた事務局の方々、改めてお礼申し上げます。

田丸翔一郎