本記事の対象読者
Dataiku等、ETLツールを財務業務に活用したい方
企業価値評価を、業務や株式投資で作成されている方
概要
今回は、ETL/データサイエンスツールである「Dataiku」で企業価値評価をDCF法(Discounted Cash Flow法)で実施する簡単な流れについてお話しししたいと思います。
現状、多くの方が同業務にExcelを利用されているかと思いますが、一部利便性にかけると感じていらっしゃる方もおみえではないでしょうか。本記事の筆者もメーカーの財務部門で同業務を担当した際、気になっていた点がありました。例えば、シート間で連動させる際のミス、説明時や引継ぎ時における可視性の低さに関して、Dataikuであれば解決するかもしれません。
※本記事ではDataiku社がまとめている下記の英文記事/講義を参考にしております。
“Financial Modeling in Dataiku,” https://www.dataiku.com/learn/webinars/financial-modeling-dataiku/
“Moving From Spreadsheets to Dataiku for Financial Modeling,” https://blog.dataiku.com/financial-modeling-dataiku
企業価値評価におけるExcelとDataikuの違い
ExcelとDataikuで企業価値評価を行う場合の簡単な比較をすると、下記のようになるかと思います。
カテゴリ | Excel | Dataiku |
視認性 | △:
セル/シート/ファイル間での処理過程の確認が手間 各処理の確認では関数の参照等が必要で、手動で削除された内容の確認は困難 |
〇:
元データから成果物までの処理過程を一元的な確認が可能 各工程で行われている処理がチケットで一覧化され、細かな処理内容まで確認が可能 |
処理性 | △:
PC性能に依存し、扱うデータ量に限界がある |
〇:
Dataiku内のクラウドで完結 |
作業性 | -:
共同編集時のデータ競合が発生 Shortcutの作業スピードへの寄与は大きい |
-:
工程別に複数人での作業が可能 Shortcutの作業スピードへの寄与は少ない |
利用障壁 | 〇:
学びの手段が多様で、ユーザーが多い |
△:
学びの手段が限定 的で、ユーザーが少ない |
Dataikuによる企業価値評価の流れ
作成の流れは投資案件によって異なるかと思いますが、今回は非常に簡単なケースでの流れを記載しております。
NPV(正味現在価値)、IRR(内部収益率)、返済期間を作成 ※下記資料1~4をご参照ください
①割引率やWACC、過去データ等の前提を用意
青四角アイコン:Input1~3
②フリーキャッシュフローを算出
黄色丸アイコンにより1のデータを結合し、joinedデータセットとして出力
③NPVやIRRを算出
2で作成されたinvestmentProjects_NPV_joinedデータセットから、黄色アイコンでNPVを算出 ※ExcelのNPV関数に準ずる機能を使うことができないため、期間ごとに割引係数を求める必要がある(IRRデータセットとして出力)
同じくInvestmentProject_joinedデータセットから、黄色アイコンで各案件と期間のDCFを算出 (Investment_Pr
oject_preparedデータセットとして出力)
④他のシナリオでのNPVを算出し、描写
IRRデータセットではIRRを描写 ※今回の例ではマイナスのキャッシュフローが2か所あるため、IRRが2つある (資料2をご参照)
Investment_Project_preparedデータセットから、2つの黄色アイコンにより、投資アイデアごとのNPVと返済期間を算出 (NPVデータセット、Cumulative_NCFデータセットとして出力の上、資料3, 4の通り描写)
( 資料1:NPV、IRR、返済期間の作成の全体像, Dataiku, "Moving From Spreadsheets to Dataiku for Financial Modeling," https://blog.dataiku.com/financial-modeling-dataiku)
( 資料2:IRR, Dataiku, "Moving From Spreadsheets to Dataiku for Financial Modeling," https://blog.dataiku.com/financial-modeling-dataiku)
( 資料3:NPV, Dataiku, "Moving From Spreadsheets to Dataiku for Financial Modeling," https://blog.dataiku.com/financial-modeling-dataiku)
( 資料4:返済期間, Dataiku, "Moving From Spreadsheets to Dataiku for Financial Modeling," https://blog.dataiku.com/financial-modeling-dataiku)
将来のPL (損益計算書)を作成 ※下記資料5をご参照ください
①過去のPLと年成長率等を用意
青四角アイコン:Input1,2
②向こう数年分のPLを作成
2つの黄色丸アイコンにより、preparedデータセット、transposedデータセットが出力
黄色アイコンにより、2つのデータセットを結合する
②PLを各利益ごとに構造化
残りの各黄色丸アイコンでフォーマットを整えながらPLを組み立てていく
( 資料5:PL作成の全体像, Dataiku, "Moving From Spreadsheets to Dataiku for Financial Modeling," https://blog.dataiku.com/financial-modeling-dataiku)
描写
Excelだとファイルやシートをまたぐ資料を一か所で可視化することは難しいですが、Dataikuであれば様々な工程から抽出したグラフ等をまとめ、ダッシュボードで確認することができます。
例えば企業価値評価の例ですと、計算過程を除いた項目(前提条件、将来PLやフリーキャッシュフローのグラフ、内部収益率、評価額)を一元的に可視化しておきたいニーズに応えられるのではないでしょうか。
下記資料6は企業価値評価のケースではないですが、描写の一例です。
( 資料6:描写の事例, Dataiku, "Concept | Dashboards," https://knowledge.dataiku.com/latest/data-viz/dashboards/concept-dashboards.html)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
筆者が経験した財務部門では、新入社員や未経験の方に引継ぎや説明をする場面が多いことを考慮すると、Dataikuは有用かと思いました。一元的に流れを理解できますので、全体像の説明は不要となり自習も進めやすいと感じます。また、細かく分業をする企業においては役割分担をしやすくなるかと思います。一方で、ショートカットを駆使してとにかく数をこなす必要がある方には、Dataikuは限定的な用途となるかもしれません。
今回はDataikuによる企業価値評価の簡単な流れをご紹介いたしました。機会があれば実際の操作も記事にしていきたいと思います。
Dataiku社の英文記事では他にも財務業務におけるDataikuへの活用例が掲載されておりますので、ご興味のある方はぜひご参照ください。
“Dataiku: Bringing Finance & Audit Teams into the Age of AI,” https://www.dataiku.com/solutions/finance-audit/