概要
沖縄県の入域観光客数は増加傾向できており、特にこの数年は国内客、外国客ともに過去最高を記録してきている。その国内客と外国客についてここ5年余りの月次データを季節調整し季節性の確認と今年の残りの期間の予測を行った。季節性はどちらもはっきりと観察されたが、国内客と外国客ではその大きさや時期に差がみられた。今年の予測値は、国内客については近年の増加率が落ち着いてきており伸びがより小さく予測された。他方、外国客は、ここ数年の堅調な伸びが引き続いており、今年後半も堅調に伸びると予測された。
1. はじめに
1.1. 入域観光客数の推移
沖縄県への入域観光客数1は、本土復帰の1972年以降を図1でみてみると、概ね右肩上がりで推移してきている。近年においては、リーマンショック(2008年)後の世界的な景気低迷や東日本大震災(2011年)による一時的な落ち込みの後は、円安による追い風もあり国内客、外国客ともに堅調に伸びている。直近の2017年(暦年)の入域観光客数は、939万6200万人と5年連続で過去最高記録を更新した。沖縄県では、平成30年の見通しとして、国内客、外国客ともに好調な推移を見込んでいる2。
注1)入域観光客数の定義や算出方法は2. データを参照。
注2)沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課「平成29 年(暦年)沖縄県入域観光客統計概況」2018年1月発表
1.2. 国内客・外国客別入域観光客数の推移
国内客と外国客別にここ20年の推移(図2)をみると、直近ではともに過去最高記録を更新してきている。特に、外国客の2017年は対前年比22.1%の増加であり、入域観光客の総数に占める割合は27.1%にまで増加してきている。
図2 国内客・外国客別入域観光客数(暦年)と外国客割合の推移
1.3. 入域観光客数の見通し
上記のとおり今年については好調な市場が年初に見通されているが、より直近の実績値も考慮して今後の予測を立ててみたい。月次での推移(図3)をみてみると、国内客、外国ともにここ数年は右肩上がりの傾向があるが、どちらにも季節性がみられる。そこで、季節要素を取り除いたトレンドを参考により短期の観光客数の予測を試みることにする。
2. データ3
沖縄県は、月次と年次(暦年および年度)で入域観光客数を公表している。ここで、入域観光客数とは、沖縄県に入域する者(沖縄県在住者を除く)全ての人数である。
入域観光客数は、沖縄県が実施する航空乗客アンケート調査の結果に基づく航空乗客に占める沖縄県在住者以外の者の割合を、本土-沖縄間に就航する航路別月間旅客輸送実績に乗じて算出している。外国客は、沖縄県内で入国審査を受けた外国人の人数を集計し、外国客数としている。よって、沖縄県以外の地域で入国した後、国内路線で沖縄県に入域する外国人は国内客数に含まれて推計されている。
注3)本節は沖縄県「観光要覧」に基づいている。
3. 季節性の除去
3.1. 季節調整法
月次の観光客数には図3のとおり季節性が存在するが、季節性を除去した季節調整済みの系列を推計することにより、より短期の将来の動きを見通しやすくなる。ここでは、X-12-ARIMAを用いて季節調整済みの系列(季節調整値)を算出した。その際に、国内客と外国客では季節性、トレンドともに差があると考えられるため、国内・外国別に季節調整を行った。
対象期間は、東日本大震災の影響が弱まりここ数年の一連の増加傾向の過程にあると考えられる2013年1月から最新の実績値のある2018年5月までとした。
ここで、季節性の除去については以下のように考えることとする。時系列の各変数(原系列)は、傾向循環変動と季節変動、不規則変動の3つの成分に分解されるとする4。季節変動は1年を周期とする変動であり、傾向循環変動は趨勢的な長期変動もしくは1年より長い周期の変動、不規則変動は周期性を持たないランダムな変動である。季節調整値は、原系列から季節変動成分を除いたもの、言い換えると傾向循環変動と不規則変動を合わせたものである。X-12-ARIMAは、米国センサス局が開発し公表している移動平均法をベースとした季節調整法であり、これを用いてトレンドサイクル成分(傾向循環変動)や季節要素(季節変動成分と曜日・休日変動成分)の抽出、季節調整値の算出を行った5。
注4)傾向循環変動は趨勢的な長期変動の傾向変動と1年より長い周期の変動の循環変動に分ける場合もあるが、対象期間が5年5か月分と比較的短い今回は特に区別せずに傾向循環変動を分析した。
注5)X-12-ARIMAでは、期間長や曜日・休日の効果も算出される。これらは、1年周期の変動ではないので季節変動成分ではないが、季節要素に含めることとして季節調整値からは除かれている。
3.2. 季節調整における設定
国内客、外国客の季節調整における設定は以下のとおりである。
- 国内客、外国客両変数において共通の設定
- 季節調整法: X-12-ARIMA
- 原系列の変換:対数変換
- 分解方式:乗法型
- 期間(月次):2013年1月~2018年5月
- 回帰変数による異常値等の処理6
- 期間長・曜日効果:各曜日数(うるう年調整含む)
- 予測値作成のためのARIMAモデル:SARIMA(p,d,q) (P,D,Q)12~(0,1,1) (0,1,1)12
- 国内客における共通の設定
- 回帰変数による異常値等の処理
- 外れ値を示す回帰変数:期間長・曜日効果:平日の休日数7
- 回帰変数による異常値等の処理
- 外国客における共通の設定
- 回帰変数による異常値等の処理
- 外れ値を示す回帰変数:2013年1月(加法的外れ値)8
- 回帰変数による異常値等の処理
注6)X-12-ARIMAでは、事前調整パートにおいて、回帰変数を用いて原系列に含まれる異常値等の影響を抜き出している。ここでは、outlierコマンドという外れ値の自動検出機能を用いて異常値候補を確認し、そのうち根拠のある月については外れ値とした。
注7)ユーザー定義変数として筆者作成の日本の平日の休日数を表す回帰変数を採用した。
注8)2013年は中華圏における春節が2月となったこともあり、マイナス方向の一時的な外れ値とした。
3.3. 季節調整値
国内客の季節調整値およびトレンドサイクル成分の推移は図4のとおりである。概ね右上がりの傾向があるが、直近の1年程度ではトレンドサイクル成分の対前月比がプラスの月とマイナスの月が混在している。国内客については、トレンドの伸びが鈍化してきている、もしくは、循環変動の谷に向っているといった可能性が考えられる。同様に、外国客については図5のとおりであり、国内客よりも顕著に右上がりの傾向がある。
3.4. 季節調整値
国内客と外国客の季節変動成分をみてみると(図6)、どちらも期間を通して安定しているが両者の動きには差がみられる。国内客は3月、7~9月が多いのに対して、外国客は4~10月に多く季節性も比較的大きい9。
注9)外国客はバカンスシーズンもしくは暖かさという点でこの時期に集中している可能性があるが、国籍ごとに季節性に差異があるので正確な予測には国籍別により詳細に検討する必要がある。
4. 短期の将来予測
4.1. 予測の算出方法
季節調整を行うに当たって分解されたトレンドサイクル成分の推移を参考に、2018年の6月以降について予測し年間の入域観光客数を予測してみる。X-12-ARIMAでは季節調整の際に、季節要素の予測値として予定季節要素を一定期間分出力させることができる。シナリオに基づくトレンドの予測値とこの予定季節要素を合わせることで将来の予測値を算出してみる。
一般に時系列データからその将来の予測を行うにあたっては、その変数の過去のデータのみから予測するものと、外生的に決まってくる他の変数も含めて予測するもの、さらにはこれらをあわせたものがある。観光客数の動きは景気動向や為替変動、航空や船の便数、宿泊施設の容量といった外生的な要因の変動にも大きな影響を受けているはずである。しかし、これらの変数を組み込んだ月次の予測モデルの構築は難しく、また、モデルをうまく構築できたとしても外生変数の月次の将来予測もまた幅を持った値となってしまう。一方、1変量の時系列分析には季節性を考慮したものとしてSARIMAモデル10がある。しかし、本分析においては、まず、季節要素と季節調整値の推移を確認したため、そこから抽出された循環傾向変動を伸ばして予測することにした。
4.2. 国内客の見通し
国内客については図 4のとおり、最近1年程度ではトレンドサイクル成分の対前月比が小さく増減を繰り返しており、予測が難しい。そのため、近い将来の予測値としては、直近の値で一定であるとする。予測値を含めて国内客の推移は図7のとおりであり、2018年(暦年)の国内客の予測値は689万と前年比では0.5%増の微増であった。
注10)原系列を通常の階差と季節階差をとることで定常な時系列過程とした上で、そのARとMAの各次数を決定しARMAモデルを構築する。
4.3. 外国客の見通し
外国客の推移は図5にあるように右上がりであるものの増加幅には多少の差がある。そこで、トレンドサイクル成分をトレンドの多項式に回帰させた11。ここでは、3次曲線を当てはめ外国客の入域観光客数の予測値を算出したところ、その推移は図8のとおりであった。2018年(暦年)の外国客の予測値は321万人であり、対前年比21%増であった。
注11)X-12-ARIMAでは、原系列から移動平均によりトレンドサイクル成分を抽出する際に、平滑化によいようにウェイト付けされた加重平均(Hendersonの移動平均)を用いている。ここでは、係数の有意さと形状のシンプルさから次数は3次とした。
以上より、2018年(暦年)の国内客と外国客の合計は1010万人となり対前年比7.4%増で、初めて1千万人を超えると予測されている。そのうち、外国客の占める割合は31.6%と3割を超える。
4.4. 予測値の検証
以上の結果を、予測時点が2017年5月とやや古いが、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)による見通しと比較してみる12。OCVBの予測では、2018年度の国内客と外国客はそれぞれ698万人と287万人であった。上記の手法で暦年ではなく年度で改めて予測値も算出してみると、国内客と外国客はそれぞれ689万人と328万人であり、国内客はやや少なく外国客は多かった。
これらの差は、本分析におけるトレンドのシナリオが、国内客は停滞し、外国客は過去のトレンドの延長で伸びていくとしていることによると考えられる。
また、外国客についての本分析では過去のトレンドの推移からより単純な形状で将来へと伸ばしているが、為替レートや世界的な景気、直行便の便数、リピーターの割合等の外生的な変数や、リピーターの再訪までの間隔等による循環的な変動も影響してくるので、より長期のより精度の高い予測を行う場合にはこれらも影響に入れる必要があると考えられる。
注12)一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローHP「OCVB 2030年度までの沖縄入域客数見通し」2017年5月23日
http://www.ocvb.or.jp/topics/1709
5.結論
沖縄県の入域観光客数の季節性と近い将来の予測値を、ここ5年余りの月次データから国内客と外国客別に算出してみた。季節性はどちらもはっきりと観察されたが、国内客と外国客ではその大きさや時期に差がみられた。国内客については近年の堅調な伸びが落ち着いてきており、今年(2018年)前半までの月次の実績値(1~5月)を踏まえた年間の予測では、前半の軟調な推移を反映して伸びがより小さく予測された。他方、外国客は、ここ数年の堅調な伸びが引き続いており、今年後半も堅調に伸びると予測された。ただし、外国客の季節性については国籍ごとにその動きや大きさに差異があると考えられ、国籍別に分析を行ってみる必要がありそうである。この点については、別の機会に国籍別の季節性の抽出とそれを用いた予測を行うこととしたい。
村野 直樹(Naoki Murano)