
はじめに
先日、dbtが提供する最新のトレーニング「dbt Mesh」を受講しました。
本記事では受講内容をもとに、単一(モノリシック)プロジェクトの課題点から、dbt Meshがどのようにそれを解決するのかを紹介します。
1. モノリシックデータ構造の課題
従来の単一巨大プロジェクト(モノリシック)は以下のような課題を抱えています。
■信頼性の低下(Reduced Trust)
・上流での変更が下流に予期せぬ影響を及ぼす。
・開発の標準化が困難で、開発者ごとにばらつきが発生。
■リリース速度の低下(Reduced Shipment Speed)
・プラットフォームチームがボトルネックとなる。
・新規ユーザーのオンボーディングが困難。
・正しいモデルを探すことが難しい。
■コストの増大(Increased Costs)
・開発サイクルが長期化。
・冗長なデータプロダクトが増え、運用コストが増加。
(余談)
モノリスって大きな一枚岩という意味らしいです。
調べたら、エヴァのゼーレの会議に出てくる四角いオブジェクトもモノリスって呼ばれいるそうです。
2. dbt Meshとは?

(画像公式より引用)
これらの課題を解決するのが、dbtが提唱する 「dbt Mesh」 というマルチプロジェクト構造です。
Meshでは、基盤となる「Foundational Project」を作り、その上にマーケティングや財務、営業といったドメインごとのプロジェクトを展開していきます。
各チームがデータの所有権を持ちつつ、全体のガバナンスは崩さないというバランスを実現しています。
3. Model Governance で実現する秩序
dbt Meshを支えるのが「Model Governance」です。これは以下の3つの仕組みから構成されます。
a. Model Contracts(モデル契約)
・各モデルのスキーマ(列名・型・制約)を明確に保証。
・契約が破られるとdbtのビルドを失敗させ、未然に問題を防ぐ。
models:
- name: sales_summary
config:
contract:
enforced: true
columns:
- name: sales_id
data_type: int
constraints:
- type: not_null
b. Model Versions(モデルバージョン管理)
・破壊的な変更を段階的に反映し、下流モデルの影響をコントロール。
・「新旧両方のモデルを共存させる」ことで、変更の安全性を高める。
models:
- name: sales_fact
latest_version: 2
versions:
- v: 2
- v: 1
c. Groups & Access Modifiers(グループとアクセス制御)
・モデルごとの所有者を明示し、参照可能範囲を設定。
・不適切な参照を防ぎ、プロジェクト間のコラボレーションを明確化。
groups:
- name: finance_team
owner:
name: Finance Department
email: finance@company.com
models:
- name: pnl_summary
group: finance_team
access: public
4. Multi-Project Collaboration(マルチプロジェクト連携)
複数プロジェクトを作成し、相互に参照する方法も簡単です。依存関係をdependencies.yml
で定義し、ref()
マクロでクロスプロジェクト参照を行います。
projects:
- name: foundational_project
select * from {{ ref('foundational_project', 'customer_data') }
マルチプロジェクトで依存関係をリネージ(画像は公式より引用)
これにより、複数プロジェクト間の依存関係を明確に把握できるようになります。
5. Cross-Project Orchestration(プロジェクト間オーケストレーション)
さらに、dbt Cloudではジョブの終了をトリガーに他のジョブを連鎖的に実行(Job Chaining)する機能があります。
これにより、時間ベースのスケジュールではなくイベントベースでの処理連鎖が可能になり、デバッグ性と柔軟性が向上します。
まとめ
モノリシックからdbt Meshへ移行することで、以下のようなメリットがあります。
・信頼性の向上(明示的な契約とバージョン管理)
・リリース速度の改善(チームごとの自律性確保)
・コスト削減(冗長性の解消)
実際に受講して感じたのは、技術以上に 「運用設計」が重要 ということです。
テンプレートや命名規則、ドキュメントの整備といった小さな仕組みが、マルチプロジェクト運営の成否を分けます。
これからdbt Meshを検討する方は、まず小さなスコープで始め、段階的に広げていくことをお勧めします。
本記事がdbt Mesh導入を検討する皆さまの参考になれば幸いです。
(参考文献)
公式ラーニングパス dbt mesh
https://learn.getdbt.com/learn/course/dbt-mesh
How Hybrid Mesh unlocks dbt collaboration at scale
https://docs.getdbt.com/blog/hybrid-mesh
Explore multiple projects
https://docs.getdbt.com/docs/explore/explore-multiple-projects