kyota.takahashiです。
今期はチームや個人の目標として「ミスを科学的に学び、業務に活かす」ことを掲げました。
「ミスをゼロにすることはできない」。それでも、ミスを最小限に抑え、再発を防ぐ仕組みを作ることは可能です。
今期、私たちのチームでは「ミスを科学的に学び、業務に活かす」をテーマに掲げ、日々の業務改善に取り組んでいます。
本記事では、目標達成の一貫として拝読した、日本経済新聞出版の
「無くならないミスの無くしかた 成果をあげる行動変容」(石田淳著)の中で業務に役立ちそうな方法を紹介します。
ミスが生まれる背景
ミスを防ぐためには、その背景や原因を正確に理解することが重要です。
本記事では「無くならないミスの無くしかた」の中から、業務に役立ちそうな内容をピックアップし、具体例を交えて解説します。
「曖昧な言葉」が日常化している
ミスの一因は、曖昧な指示が日常的に行われていることです。
たとえば、開発したダッシュボードのWチェックを依頼する際に、「不具合がないか全体的にざっと見てください」と伝えた場合、
チェックする側は何を優先的に確認すれば良いのか分からず結果的に重要な箇所を見落とす可能性があります。
曖昧さは、相手の思考リソースを奪うだけでなく、ミスや確認漏れのリスクを増大させます。
そのため、曖昧さを排除し、具体的かつ明確な指示を心がけることが大切です。
改善例:
「フィルターを追加したので、○○という設定が正しいか、また○○という項目が含まれているか確認してください。」
このように指示を具体化することで、受け手の迷いを減らし、効率的で正確なチェックが可能になります。
精神論がまかり通ている
本書では「叱って教える方法が通用しない」と述べられています。
実際、ミスに対して叱責や否定的な言及のみで終わる場合、次に必要な改善行動が明確にならず、同じミスが繰り返されがちです。
効果的なマネジメントの鍵は、正しい行動を具体的に教え、その成果を承認する仕組みです。
たとえば、以下の流れを取り入れることで、ミスを減らす文化を醸成できます。
- 具体的な行動を教える: ミスを防ぐための手順やポイントを明確に説明する。
- 実践をサポートする: 行動を試してもらい、適宜フィードバックを提供する。
- 成果を承認する: 適切な行動が行われた場合、必ずその成果を認め、ポジティブなフィードバックを与える。
叱責だけではなく、行動変容を促すアプローチを取ることが重要です。
効率化に伴うチェック工数の削減
業務効率化を進める中で、チェック作業が省略されたり、Wチェックが省かれたりする場面があります。
しかし、必要なチェック工程を削減してしまうと、結果的にミスが発生するリスクが高まります。
典型的な例:
1人で全ての作業を完結させた場合、作業の見落としや思い込みによるミスが増加することがあります。
特に複数の工程が絡むタスクでは、Wチェックや他者の視点が重要です。
効率化のために不要な作業を削減するのは良いことですが、「省略した結果、重要なチェックが抜け落ちていないか」を常に意識する必要があります。
必要不可欠な確認工程を見極め、作業プロセスに組み込むことが重要です。
ミスをなくす仕組みづくり -メカニズム-
ミスを防ぐためには、望ましくない行動を減らし、安全な行動を増やすことが重要です。
そのために、行動のメカニズムを理解し、適切な仕組みを整える必要があります。
人の行動サイクル
人は特定の条件(行動の理由)が整うと行動を起こし、その結果として成果や影響が生まれます。
このサイクルを理解することで、行動を改善し、ミスを防ぐ方法を考えることができます。
人の行動 -ABCモデル-
A (Antecedent) 先行条件: 行動を起こすきっかけや環境。
B (Behavior) 行動: 実際に取る行動。
C (Consequence) 結果: 行動によって得られる成果や影響。
行動の繰り返しに関する原則:
行動の結果、メリットがあるまたはデメリットを避けられる場合、その行動は繰り返されます。
メリットがない、もしくはデメリットが避けられない場合、その行動は続きません。
習慣化のカギ
行動を習慣化するには、以下の3つがポイントです。
- 即時性: 行動の結果がすぐに分かる。
- 確実性: 行動の結果が明確で信頼できる。
- ポジティブな結果: 行動の結果に良いことがある。
逆に習慣化しづらい条件は行動の結果が遅い、不確実、またはネガティブな場合です。
PST分析
行動や結果を以下の観点で分類することで、習慣化しやすい条件を明確にできます。
【タイプ】ポジティブ(P) / ネガティブ(N)
【タイミング】すぐに生じる結果(S) / 後で生じる結果(A)
【可能性】確かな結果(T) / 不確かな結果(F)
人が物事ができない理由
行動ができない人を「性格」「やる気」「姿勢」の問題と片付けるのではなく、その原因のメカニズムを探る必要があります。
行動科学からみた、人が物事をできない理由を2つに分けて考えます。
①やり方を知らない
やり方とは知識、技術のことです。
やり方を知らない人は、どちらかあるいは両方が不足している可能性があります。
知識: 作業手順やルールなど、聞かれたら答えられる。
技術: ドキュメント作成やツールの仕様など、実際にやろうとすればできるスキルや能力。
対策:
・やり方を知識と技術に分けて整理し、不足している部分を特定します。
・曖昧な指示を避け、「具体的な手順」を示します。
例: 「AをしたらBを行い、次にCをする。」
②やり方を知っていても継続の仕方を知らない
習慣化とは行動が定着し、自発的に安全行動が取れるようになることです。
対策:行動の結果がメリットと結びつくように設計する。
結果承認: 金銭や成果物などの具体的な報酬。
行動承認: 褒める、ポジティブな評価を与える。
存在承認: 感謝の言葉や認識を伝える。
ミスを無くす仕組みづくり -実践5STEP-
ミスを防ぐためには、以下の5つのステップに基づいた仕組みづくりが必要です。
1. 繰り返し発生しているミスや事故を特定する
ミスの根本原因を見極めるために、現状を分析します。具体的な方法として以下が挙げられます:
・アンケート: チームや関係者に匿名で意見を募る。
・ヒアリング: 対話を通じて詳細な情報を収集する。
・観察: 実際の業務プロセスを確認し、潜在的な問題を把握する。
2. 安全な状態を特定する
暗黙知として存在する安全行動を明確にし、言語化します。
例: 「ミスを防ぐために普段無意識に行っている確認作業」や「重要な手順のダブルチェック」など、具体的な行動を洗い出す。
3. 一連の行動を特定し言語化する
安全行動を明確にする際には、以下のように整理することが効果的です:
SMORS
行動を「Safety(安全)」「Measurable(計測可能)」「Observable(観察可能)」「Reliable(信頼性できる)」「Specific(明確化されている)」
以上観点で記述し、チーム全体で共有する。
4. ピンポイント行動の特定
ミスを防ぐためには、特に影響が大きい行動や改善の効果が即時に期待できる行動を特定することが重要です。
その際、以下の条件を満たす行動を選定する必要があります。
すぐに記憶できる行動になっているか
・複雑すぎず、一度の説明で覚えられる行動であること。
例: 「作業完了時に必ずチェックリストを使用する。」
誰が見ても解釈にズレがない行動になっているか
・行動の内容が具体的で、誰が見ても同じ意味で理解できるもの。
例: 「メール送信前に、宛先・件名・添付ファイルの3点を必ず確認する。」
日々繰り返しできる行動になっているか
・業務の中で自然に取り入れられ、習慣化が可能な行動であること。
例: 「会議資料は終了15分前にチェックを終える。」
既存の行動習慣を大幅に変えなくていい行動になっているか
・現在の業務フローにスムーズに組み込める行動であること。大きな負担や抵抗を感じさせない内容にする。
例: 「日次作業報告の中に、ミスを防ぐための一言メモを加える。」
5. 行動を継続する環境づくり
安全な状態を維持し、それを習慣化させるための環境を整備します。
ルール化: 明確に定義された安全行動を業務の標準手順に組み込む。
フィードバックと承認: 適切な行動をした場合には成果を認め、ポジティブなフィードバックを与える。
適切なコミュニケーション:チーム全体で行動の重要性や進捗状況を共有し、行動が習慣化されるようサポートします。
最後に
ミスは避けられないものですが、科学的なアプローチで最小化することことができます。
曖昧さを排除し、具体的な行動指針を設定することで、チーム全体の業務品質を向上させることが可能です。
本書で学んだ内容を継続的に実践し、業務改革につなげていこうと思います。
(参考文献)
無くならないミスの無くし方 成果を上げる行動変容(日本経済新聞出版)